彼は腐女子を選んだ
ホッとした。

……けど、せっかくお友達が来てるなら……私も、遠慮したほうがいいかな。

後で、また来よう。


踵を返して、歩き出した。


すると、後ろから私を呼ぶ声が追いかけてきた。

「待って待って。正美ちゃん!」


低いよく通る美声に、驚いた。

まるでバリタチのキャラの声優さんのようだ。


そーっと振り返ると、あきらの部屋から顔を出しているのは……うーわー!


かっこいい!

めちゃめちゃかっこいい!


知ってる!

このヒト、私、知ってる!


中村上総(かずさ)だ!


いわゆる御曹司ではなくて、歌舞伎の舞台では脇……というよりは、モブしかできないような立場だけど、イケメンだし実力もあるし、テレビでは引っ張りだこ。

ほんとかどうかは知らないけど、実は大名跡の隠し子じゃないかって言われてる人だ。



目を剥く私に、中村上総はにっこりと微笑みかけた。


色気だだ漏れ!

ひやー!


「あきらが呼んでる。入って。」

「あ。はい。……はい。……お邪魔します……。」

手招きされて、ふらふらと病室に入った。


「やー、すごかったよ。ありがとう。正美ちゃん、できる子だね。」

中村上総は、戸を閉めたその手で私の頭を撫でた!


ひいいいっ!

びっくりして、固まってしまった。

ら、中村上総は、おもしろそうに、私の頬や、顎、肩をペタペタと触って、笑った。

「かわいいなあ。正美ちゃん。反応が新鮮。」


「ちょっと!かずさん。正美ちゃんで遊ぶのやめてぇな。」

ベッドから伸び上がって、あきらが喚いた。


……ほう。

今まで見たことのない、あきらだ。

おもしろい。


「中村上総さん?いつも、テレビで拝見してます。はじめまして。堀正美と申します。」

そう言ってお辞儀をしたら、中村上総はアハハと乾いた笑いの後、表情を引き締めた。

「ご丁寧に、ご挨拶、ありがとうございます。中村、上総でございます。」

おおっ!と目を見張るほどに、美しい立礼をしてから、中村上総はへらっと笑った。

「で?あきらとは、いつからつきあってるん?」

「……いつからって……」


ちらっとあきらを見た。



あきらは、声を張った。

「かずさん!遊びじゃないから!……正美ちゃんには、俺が頼んで、側にいてもらってるねん。だから、からかわんといたげて!」

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