彼は腐女子を選んだ
「……へえ?……ごくろうさん?」

中村上総は不思議そうに、私を見た。


まあ……納得いかないよな。


「正美ちゃん。さっき父から連絡もらった。成績表もろて来てくれてんて?ありがとう。」


おっと、忘れるところだった。

「そうだった。これ。……見てないからな。」


鞄から出したあきらの成績表を手渡した。


「別に見てくれていいのに。」

あきらがうれしそうに成績表を開く。

と、すかさず中村上総が駆け寄り、横から覗き込んだ。


「何?これ!点数?優良可とか甲乙丙丁とか、ABCとかじゃないの?点数!?……てか、あきら、お前、すごいやん。……学年……1位って……マジ?」


中村上総は目を丸くした。


「……1位。そうか。あきら、学年1位か……。よくがんばったな……。」


変だな。

胸が、いっぱいになって……こんなことで、私……泣いてる……。


ぼろぼろと、涙がこぼれた。

抑えても、ぬぐっても、止まってくれない。


うれしくて……ただただ、うれしくて……。



あきらが、しんどいやろうに、一生懸命勉強していたのが報われた……。

点数と順位という形で、確かに報われたんだ……。



「……ありがとう。」


あきらは何とも言えない表情になって……ふにゃっと表情が崩れたと思ったら……すんと鼻をすすった。


「でも、これ、かなり、先生が甘く付けたと思う。……俺、体育の授業、出席率悪いのに、この点数は、ないわ。……同情してもろてるんかな。」


……先生……。

そうか。

先生も、そういう粋な計らいをするのか……。


うれしくなって、私もまた、あきらのそばに行き、成績表を覗き込んだ。


全ての科目が95点以上だった。


「あはは!ほんまや!……わ、ほら、出席日数見て。改竄してはる。……あきら、もっと休んだのにね……。でも、あきら、体育以外は、この点数で間違いないやん。」


……たぶん、体育は……赤点ギリギリのはずだ。


「……へえ。お堅い進学校やと思ってたけど、ええ先生やん。2学期は、もっと出席できるといいな。」

中村上総の励ましに、あきらの目が泳いだ。


それで、中村上総は察したみたい。


「あかんの?もう。」
と、心配そうに確認した。


「……うん。今日の終業式を最後に退学するつもりやってんけど……それも行けへんかった……。せやし、かずさん、今日来てくれてよかったよ。最後に逢えて、うれしかった。ありがとう。」
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