彼は腐女子を選んだ
「あきら……お前……。」

既に色欲から解脱したかのようなあきらの口ぶりに不安になった。


「……本当に、いいのか?ネタにして。」

確認したら、あきらは微笑んでうなずいた。

「いいよ。肖像権、正美ちゃんにあげる。いくらでも俺をモデルに描けばいいから。」

「そうか。では、夏休み中かかって、その、悪い遊びの一部始終を聞かせてもらおうか。もちろん、メモも取るし、録音もするぞ。」


「……こわ。マジ、腐女子、こわっ。」

中村上総の感想を無視して、あきらは頷いた。

「うれしいな。死んだ後も、ネタに困ったら、その都度、俺のことを思い出してくれるなら、こんなにうれしいこと、ない。」


こんなことで、そんなに、うれしそうな顔、するな……。


中村上総は、あきらと私を何度も見て……しみじみと言った。

「そうやな。正美ちゃんがいてくれるなら、少しは安心かな。……あきら。また来るから。ほんまに。……正美ちゃん。あきらのこと、頼みます。」


真面目に頼まれて、慌てた。

「や。あの、私、何もできませんけど……邪魔にならへんように、あきらのそばに居座るつもりしてますんで、また、来てくださいね。」


うれしそうなあきらの顔に苦笑して、中村上総は帰って行った。






「残り香……あま~。……めっちゃかっこよかった……。」

漂う甘い日本のお香の香りに鼻をひくひくさせてたら、あきらが手を伸ばしてきて、なんと、私の鼻をつまんだ!


びっくりした。


「何するん!?」

ふがふがの声で怒っても、迫力が出ない。


あきらのキープしてた笑顔が、ひくりと引きつった。

「そりゃあ、かずさんはかっこいいけどさ、……目の前で、他の男に見とれて、かっこいいを繰り返され……俺は?俺のことは?」



……なんじゃ、そりゃ。

嫉妬?

ばかばかしい。



無言で、ぶるぶると首を振り回して、あきらの指から逃れようとした。

でも、あきらは、逆に、私が逃げないように、もう片方の手で私を捉えた。

「ダメ。聞かせて。正美ちゃん。俺は?……俺は、もう、かっこいい男じゃなくなってしまったのかな。」


はっとした。


あきら、気にしてるんだ。

ゲソゲソに痩せちゃってること。



私は、……そっと、あきらの身体に腕を回した。

……細い……というより、……薄い……。
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