彼は腐女子を選んだ
……怖すぎるだろ。

やっぱり、杉森くんには近づかないほうがいい。



仕方なく、放課後、市の中央図書館まで足をのばした。


うちの市には公立図書館がいくつもあって、学校のそばにも、自宅のそばにも、図書館はある。

ネットで検索して申し込めば、最寄りの図書館まで運んでくれて、そこで簡単に借りることができる。

しかし、すぐに読みたい時は、中央図書館に行くのがてっとり早い。


私は、自転車通学なので、寄り道は簡単だ。



電車通学のひかりんたちと駅前で別れると、中央図書館を目指した。


新緑を揺らす5月の爽やかな風が心地よかった。


さすがにココにはあった。

しかも、コクトーの映画もあった。

ちょうどいいかも。


私は、限度ギリギリまで、映画と本を積み上げて借りた。




帰宅すると、予習復習しながら映画を観て、その後、本を貪り読んだ。


コクトー、やっぱりいいな。

白黒だからか、俗っぽくないし。


それに、ジャン・マレー。

なんて存在感のあるヒトだろう。

色気と迫力を兼ね備えてる。


素敵だなぁ。

萌えるなぁ。


……ふむ。

私、こーゆーヒト、好みかもしれない。



それにしても……コクトーの最後の愛人で養子にしたというエドゥアール・デルミット……うーん……。

こっちは、微妙。


コクトーの愛人は男も女も美形揃いなんだけど、……それだけじゃないんだけど……デルミット……なんか……知性も気高さも感じない。


私の好みじゃないや。


腐の対象としては、いっそ白痴美少年なら楽しいなあって感じ。

ワクワクムヒムヒしてたら、興奮してきて、ついつい睡眠時間を大幅に削ってしまった。


いかんいかん。



****

返却は、学校の帰りに、また中央図書館へ寄ることにした。


かさばる荷物を整理して鞄に詰め直していると、不意に嫌な空気を感じた。

顔を上げると、少し離れたところから、数人の女子がこちらを見て、ヒソヒソボソボソ……どう見ても、不愉快なことを話されていた。


嘲笑、侮蔑、敵意……何で?


さしあたっての原因を思いつかず、居心地の悪さを覚えた。



しかし、手にとっていた本を見て、ようやくその理由がわかった。


これだ!

『赤毛のギャバン』!
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