彼は腐女子を選んだ
詳しいことを何も言えない私の代わりに、伝えてくれたようだ。


しかし、クラス中が納得いかない!と、ざわついていた。

騒然としている教室の中……私のスマホが震えた。


ドキッとした。




「堀……。」

担任の先生も、動揺を隠し切れていなかった。


「……出ます。」

そう言って、私は画面に触れた。

ロック画面が解除され、電話をかけてきた人物の名前が浮き出た。


……杉森あきら……。



「あきら……。」



教室中がシーンとした。


みんなが固唾をのむなか、私はスマホを耳に宛てた。

「はい。正美です。」


『正美ちゃん。杉森です。今、あきらの脳死が確定しました。……正美ちゃんが来るのを待って、機械を止めてもらうから……学校が終わったら、来てください。』


御父君は、泣いていた。

そして、電話の向こうで、御母君も声を挙げて泣いていた……。


「わかりました。ご連絡、ありがとうございます。……始業式がおわったら、行きます。」



「いいから!行ってあげなさい!今!早く!」

担任の先生が叫んだ。

びっくりしたけれど、先生の目が真っ赤で……状況を察したのだろう……。


「……今から、行きます。」

『ありがとう。あきらも、早く、正美ちゃんに逢いたいと思う。最期まで、すまないね。』


……ううん。

結局、そばについててあげられなくて……あきらを独りで逝かせてしまった。

ごめん。

でも、もう淋しいと感じることもなかったかな。


あきら……。



とっくに電話は切れているのに、私はそのまま固まってしまった。



「まさみん!固まってる!あきらんとこ行くんでしょ!?」

ひかりんが、私を揺さぶった。



正気に戻った私は、担任に、そして私を取り囲んでいるクラスのみんなに状況を伝えた。


「杉森あきらが、脳死判定を受けたそうです。たぶん今日、亡くなると思います。葬儀は、あきらの自宅近くの教会でやる予定です。詳しい日時が決まったら、メーリングリストでお知らせしますので、もし可能でしたら会葬してあげてください。お花もお香典も辞退されます。」



悲鳴。

怒号。

狂乱。

号泣。


……当たり前だけど、あきらが私とつきあうと宣言したときよりも、阿鼻叫喚の地獄絵図だ……。


先生も、女子も、男子も、みんな泣いていた。
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