彼は腐女子を選んだ
あきらの学校への強い想いが込められた写真に、また涙を誘われるヒトが続出した。



みんなで賛美歌を歌い、聖書を朗読し、祈りを捧げた。

牧師さんは、子供の頃からあきらを知っているらしく、涙ながらに優しいエピソードを交えてお話しくださった。


すすり泣きが途絶えることはなかった。



参列者一同の献花が始まった。

……残念ながら、今回の棺には小窓がなくて……参列者はあきらの顔を見ることができない。


まあ、献体するし、死に化粧も施してない。

何より、骨と皮だけになってしまったあきらを、わざわざ見せる必要もないだろう。


みんなには、カッコイイあきらだけを覚えていてほしい。



ね?あきら。

遺影の中の華やかな笑顔のあきらに、心の中で話し掛けた。





一通りの儀式が終わると、教会の信者さんたちが手作りしてくださったサンドイッチや焼き菓子の簡単な軽食をビュッフェのように並べていただいた。

いわゆる「通夜ふるまい」はないが、故人を偲ぶ茶話会のようなものだろうか。



次第にヒトが減り、親族だけになった頃、中村上総が到着した。

東京での公演をこなしてから、駆け付けてくれた。

明日も舞台のために朝イチの新幹線で戻らなくてはならず、告別式には参列できないそうだ。



「正美ちゃん。知らせてくれて、ありがとう。」

「いえ。お忙しいのに、すみません。ありがとうございます。あきらも、喜んでると思います。……やっぱり、お似合いですね。」

「教会やし怒られるかなーとも思ったんやけどね……俺ら役者の礼装ゆーたら、これやし。」


中村上総は、紋付袴だった。


「カッコイイです。」

そう言ったら、中村上総は自分の唇に人差し指を宛がった。

「しーっ。あかんよ。正美ちゃんが他の男を褒めたら、あきらが成仏できひんで。」

「キリスト教やし、仏にはならへんみたいですけどね。」

「……そうか。そうやね。……じゃあ、ラピスの腕輪念珠は?」

「本当は、そのまま持って行ってほしいんですけど、献体するのに邪魔になるので取りました。……納骨の時に、一緒にお墓に入れていただく予定です。」


荒川弓子の十字架(クルス)も、取った。


「そうか。帰ってくる時は、骨なのか……。」


淋しいけれど、仕方ない。



「あきらが望んだことなので。」

そう言ったら、中村上総は、ふんと鼻を鳴らした。

「いじらしい奴だな。」


なんとなく……微妙なニュアンスに引っかかりを覚えた。

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