彼は腐女子を選んだ
「……ご存じでしたか?」

あきらがるうさんを好きなこと……。


そのつもりで聞いたんだけど、中村上総の返答はちょっと違った。

「なんや。正美ちゃんも知ってたんか。……ブロマンスとは言え、妬けるね。」


ぶろまんす……。

ブロマンス?


え?

ブロマンスって言った?


え?え?え?

いや、ブロマンスって……男同士のプラトニックラブだよ?


ちょっと待って。

あきらの好きなヒトって、るうさんじゃないのか!?


ええっ!?

男!?

誰だよっ!


主治医か?

主治医は30代の男だったけど……えええ?


とにかく、男なのか……。


言葉が出ない……。



しっかりエアコンが効いてるはずなのに、変な汗が、たらたらと流れて気持ち悪かった。






中村上総は、あきらの両親に挨拶した後、しばらく遺影を見つめていた。

信者さんが気遣って、コーヒーを入れて持って来てくださった。



「遠くから駆け付けてくださったのに……すみません。改めて、形見分けと、納骨のご報告はさせていただきますので。」

あきらの御父君の言葉に、中村上総は恐縮した。

「いえ。お気遣いなく。私は何も。……いや。そうですね。あきらくん、コクトーのDVD全集持ってるんですよ。映画の。それを、私にお譲りいたけますか?」

「……DVDですか?ブルーレイじゃなくて?よろしいんですか?」

御母君に確認されて、中村上総は頷いた。

「DVDです。記念ボックスです。」

「わかりました。リストに入れておきます。」


中村上総はご両親にお礼を言って、辞去した。


頃合いなので、私も今夜は帰らせてもらうことにした。


タクシーを呼んでもらい、中村上総さんと同乗した。


京都の定宿のホテルに泊まるというので、阪急京都線の駅までお送りする。



「……コクトー、お好きなんですか?」

いろいろ聞きたいことはあるんだけど……とりあえず、きっかけがほしくて口を開いた。


「俺?黒砂糖の黒糖は好きやけど、コクトーは教養程度にしか知らんで。……あいつ、好きやったやろ?」

「コクトーやジャン・マレーの本を読んでいたのは知ってますが……全集を買うほど好きだったとは知りませんでした。」

「それだ!コクトーじゃなくて、ジャン・マレー。主役。あいつのスマホにいっぱい画像があったわ。あーゆー男臭いイケメンに憧れてたんやて。」
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