彼は腐女子を選んだ
ジャン・マレー。

『赤毛のギャバン』だ!


しかし、スマホに画像って。

そんなに?



驚く私に、中村上総は自分のスマホをいじって、見せてくれた。


「ほら。これ、あきらのスマホの画像のスクショ。」

「……何で、そんなもん、あるんですか……。」


多少呆れつつ、中村上総のスマホを覗き込んだ。



画像フォルダのサムネイルだろうか。

小さな画面に12枚の画像が列んでいた。


その全てが、ジャン・マレーの渋い写真だった。


こわっ。

どれだけ好きなんや。



「あきら、偏執狂?」

「……思い詰める性質(たち)やからなあ。」


えー……。

しげしげと見つめて、気づいた。


若い頃の、繊細なイケメンなジャン・マレーは一枚もない。

全て、濃い、ごつごつした彫刻のような……あ……。


……そうか。

わかってしまった。


あきらの好きなヒト。


るうさんじゃない。


兄上だ。



そうだ。

どうして気づかなかったんだろう。



兄上、顎は割れてないけれど……サージカルマスクをしてたら、ジャン・マレーに似てる。


ひかりんにも指摘されてたわ。



うわぁ……。



***

道は全然こんでなかった。


中村上総を駅でおろして、私達は別れた。


「じゃあね。正美ちゃん。お互い淋しくなるけど、あきらの分まで、がんばって生きような。……また、逢おう。」


「はい。ありがとうございました。ご活躍をお祈りしています。」


もう逢うことはないだろう。

淋しいけれど、あきらがいなければ、出逢うはずもなかったヒトだ。


ひらひらと手を振って、中村上総は改札を通って行った。


……テレビによく出ている歌舞伎役者でも、脇の脇だからかICOCAかSuicaを持っているんだな……。

あんなにカッコイイのに、浮ついてるはずなのに、割と普通の感覚のヒトだったな。

そういうところが、あきらと合ったのかな。


地に足がついているというか……。


……。


あかん。

どんな顔して帰ればいいんだ……。


兄上の顔をとても見られないぞ。



家が近づくにつれ、悶々としてきた。

しかし、やはり、道は全くこんでいない。

あっという間に家の前だ。


……はあ。

あきらめて、帰宅した。


「ただいまぁ。」

「おかえり!大変やったなあ……。ちょっと待って!塩!塩!」
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