おうちかいだん
「お、おじいちゃん、変な人が鏡に映って……ガラス急に割れて……」


何から話せばいいかわからないけど、とにかく今起こっていることを伝えようと必死に声を出した。


「うん? 大丈夫じゃよ。誰もおらんから。怖がりじゃのう、ミサちゃんは」


そう言って、おじいちゃんがドンッと廊下の床を踏み締めた瞬間。


私はそれに驚いて身体を震わせた。


そして……割れたはずのガラスが、何事もなかったかのように元に戻っていて、まるで夢でも見ていたかのような不思議な感覚。


「あれ? ガラスが……割れてない?」


慌てて振り返り、鏡を見てみると、ただ天井を映しているだけ。


そこにいた女の子の姿はもうなくて、私は安堵すると同時に、荒くなった呼吸を整える為に深呼吸をした。


「怖い怖いと思うから、いもしない物を怖がるんじゃよ。大丈夫じゃ。何もおりゃせんよ」


そう言いながら私の方に歩いて、廊下の奥の部屋に消えて行った。


おじいちゃんの言う通り、私が怖がっているからなんでもない物に驚いたのかな。


そうだとしても、幻覚が見えてしまうなんて相当怖がっているんだな、私は。


だからといってすぐに怖くなくなるはずがなかったけれど、少しは落ち着いたよ。


私は壁に手をついてゆっくりと立ち上がって、自分の部屋へと向かった。


相変わらず背中に何かの気配を感じたけど、気にするのはやめにした。
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