おうちかいだん
いつものように俯いたまま、鏡を見ないように廊下を歩く。


廊下の照明のスイッチをチラリと見ても、私はそれに手を伸ばすことはなかった。


昨日までは、もしかするとその日の気分で電気を点けていたかもしれない。


でも、昨日あんなものを見てしまったら点けたいとはとても思えなくて。


徐々に大きな鏡に近付く。


大丈夫……怖い怖いと思うから、変な物が見えたと思ってしまうんだよね。


大丈夫、怖くない。


呪文を唱えるかのように、何度も何度も心の中で呟いて。


鏡を見ないように、その前を通り過ぎようとした時……私は少し気になって。


いや、もしかすると自分に大丈夫だと言い聞かせる為だったかもしれない。


スッと視線を鏡に向けると。











女の子が鏡に張り付いて私を見ていた。










ドキンと、心臓が大きな音を立てて私の胸で暴れ始める。


悲鳴を上げようにも声にならなくて、鏡に張り付いてこちらを見る女の子と目が合った瞬間、女の子の口が開いてまた、超音波のような悲鳴が私を襲ったのだ。


「ひいっ! な、なんなのよこれっ!」


台所のガラス戸が、その超音波で震え始めて割れる。


私が身をすくめてその場に屈むと同時に、飛び散った破片が廊下に散らばった。
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