おうちかいだん
「あ、いや……そういうつもりじゃなかったんだけど。藤井が穿いてるならなんでも可愛いよ」


「それ、褒めてるつもり? なんか変なの」


手を繋いだまま2人で立ち上がり、顔を見合わせて微笑むと、階段を下り始めた。


私がギュッと握ると、北島くんもギュッと握り返してくる。


親指で手の甲を撫でると、北島くんも撫でてくる。


「もう、北島くんったら」


「なあ、付き合ったんだから、お互い名前で呼び合わねえ? よそよそしいのも妙に興奮するけどよ、やっぱりもっと親密になりたいからさ」


「ふぅん。じゃあ瑛二くんって呼べばいいのかな? 瑛二くん」


私が耳元に顔を寄せて言うと、北島くんはトロンとした目になって嬉しそう。


「た、たまんねえな。俺、こんなに幸せで良いのかな。じゃあ、俺も藤井の名前を……あれ? 藤井の名前って何だっけ?」


階段の踊り場で、下に向かう階段に差し掛かりながら、北島くんが首を傾げた。


嘘でしょ?


私のことが好きなのに、私の名前を知らないとかあるの?


繋いでいた手が解けて、北島くんが二歩先で立ち止まった。


「藤井?」


そして、振り返って踊り場で立ち尽くしている私を、不安そうに見上げたのだ。
< 154 / 231 >

この作品をシェア

pagetop