おうちかいだん
名前を知らないからって怒ってるわけじゃない。


一つ一つ思い出していることの中に、なぜか私の名前も入っていたのだから。


そう……私はいつも「藤井」と呼ばれていて、名前で呼ばれたことはなかった。


だけど目の前に、私を名前で呼びたいという人が現れて。


私はそれに応えたいと、名前を口に出そうとしていた。


「そう……私は藤井……藤井リサ。瑛二くん、私はリサなんだよ」


「マジか。偶然ってあるもんだよな。俺が話した怖い話の女の子もリサだろ? なんかこういうの、運命って感じがするよな」


ははっと笑ってみせる瑛二くんに、私は首を横に振った。


「話の中で女の子は、階段で振り返ったでしょ? その時、本当は死ぬはずだった女の子の代わりに、お母さんが死んじゃったのよ」


さすがに私の言葉の意味がわからないのか、北島くんが首を傾げて不思議な表情を浮かべた。


「え、いや、その話はもういいって。ほら、早く行こうぜ。リサ」


手を伸ばして、少し困ったような顔を向けた北島くん。


だけど……。











ギギ……。







ギギ……。









そんな音が、どこからともなく聞こえて、北島くんの髪の毛が何者かに掴まれたのだ。
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