おうちかいだん
「リサ、お風呂から上がったら、上がったって言いなさい!」
廊下の奥から聞こえたお母さんの声に、私の身体はビクッと震えた。
だけど、あまりにも怖くて身動きが取れないこの状況で、もう頼れるのはお母さんしかいない。
「お、お母さん! 助けて!」
藁にもすがる思いでそう声を出したけれど……廊下の奥、壁の切れ目から現れたのは、不気味な二本の腕だった。
そして、その間から誰だかわからない白い女の人の顔が飛び出して、その気味の悪い目で私を睨み付けたのだ。
ありえないありえない……感覚でわかる、人間の形をしていない女の人。
「こっちに来なさい」
まるで地の底から響いて来るような声が、私の耳元で聞こえた。
まずい……まずいまずいまずいまずい!
逃げなきゃ、逃げなきゃ!
でも一体どこに……とにかく自分の部屋にでも逃げないと!
恐怖で固まって動かない足を、無理矢理に動かして廊下を走る。
真っ暗な中を、わけのわからない物から逃げる為に必死に。
「待ちなさい、待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい待ちなさい!! リサ!」
そんな中で、お母さんの声を出す女の人が私を追い掛けて来た。