おうちかいだん
お母……さん?


そうだ、お母さんの名前はミサだ。


どうして私はそれを忘れていたのだろう。


いや、違う。


おじいちゃんが私のことをミサと呼んでいて、名前を呼ぶのに困ったからミサと名乗ったはずだから、そんなの気付くはずがない。


「本当に……お母さんなの」


「そうよ? 死にたくないって願っていたら、鏡の中にその想いが蘇ったのよ。でもね、実体がない私は長くは持たないから、リサになろうって決めたの」


何を言っているの、ミサは。


私になるって……じゃあ、今まで私を綺麗にしてくれていたのは、この時を狙うためだったの?


「そんなこと……やめて、離して!」


慌てて手を振り払い、逃げようとするけど……掴む力が強くて、どれだけ振りほどこうとしても手が離れない!


「無駄な抵抗はしないで。リサは私、私はリサ。これからは、私がリサとして生きるから、あなたは鏡の中で大人しく私の影として生きなさい」


ミサの上半身がゆっくりと鏡の中から出てくる。


私を掴んだまま、鏡の中に引きずり込もうと。






「い、嫌っ! 嫌だ! 誰か助けて!」






私がそう叫んだ時。


私の背後に黒い人影が現れたのを、鏡は映していた。
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