おうちかいだん
冷たい手で背中を撫でられているかのような強烈な悪寒が駆け巡る。


それを、トイレにいる間中ずっと感じるのだからたまったものじゃない。


正面にいる幽霊から目を逸らして、入口に近い場所にある個室に入ってズボンとパンツを下ろして便器をまたぐ。


いつもこの瞬間が恐ろしくてたまらない。


ぼっとん便所だから、足を踏み外して落ちたらどうしようという心配もあるけど、それよりも恐ろしいものがこの下にいるから。




ベチャッ!




という、何かが大きな物が落ちる音が下の方から聞こえた。


「う、嘘でしょ! 早く早く……早く出て!」


うちの便槽は、隣り合う2つの個室が繋がっているのだ。


この音が聞こえるともう時間がない。


私がまだ用を足していなくても、待ってくれないのだ。


「あぁ……あぁ……」


そんな唸るような声がどんどん近づいてくる。


「も、もうちょっと……」


何とかギリギリのタイミングで終わらせることができたと、慌ててズボンとパンツを上げながら立ち上がった。


だけど、それでは間に合っていなかったんだ。


便器の中から何本もの血塗れの手が伸びて、私の足首を掴む。


私を便器の中に引きずり込もうと、徐々に力が込められる。
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