おうちかいだん
「嘘、嘘嘘嘘嘘! やだ! やだやだ! 助けて、助けてお母さん!」


ズルズルと、少しずつ両足が便器の方に引っ張られて、私は慌ててドアの鍵を外して叫んだ。


どうして私だけに幽霊が見えて、どうして私だけがこんな目に遭うのかがわからない!


こんなトイレは使いたくないのに、この家にはこのトイレしかないから使うしかないのに!


「もう! 何を大騒ぎしてるのよ! あんた、中学生にもなってまだ落ちるかもしれないとか思ってるの!? これで何度目よ!」


「ち、違う! トイレの中から手が……いっぱい手が出て、私の足首を掴んで……うわあああああああ」


お母さんがドアを開けた瞬間、私の足首を掴んでいた手がスッと消えて、足が自由に動くようになった。


慌てて飛び退くようにして便器から離れ、手を洗ってトイレを出た。


「あんた、もういい加減にしなさいよ? 中学二年生にもなって、お母さんにトイレにつきてきてもらうなんて話、聞いたことないんだから。明日からは一人で行くこと! わかったわね!?」


その言葉に、私は頭をハンマーで殴られたかのような衝撃を覚えた。


言いたいことはわかるけど、今日私は足首を得体の知れないものに掴まれて、あと少しで便器の中に引きずり込まれそうになっていたのに。


私にとって、お母さんの言葉は死刑宣告にも等しいものだった。
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