おうちかいだん
ギシギシと、踏みしめるたびに音を立てる階段。


部屋にいてもこの音がするだけで、誰かが階段を上り下りしているのがわかるくらいの大きな音だ。


私はこの階段も嫌いだ。


というか、この家で好きな場所なんてどこもないような気がする。


徐々に暗くなる、闇の中に下りて行くようで、恐ろしさを感じてしまう。


でも、本当に怖いのは暗闇の中に行くことじゃない。


階段を下りて玄関。


家の奥の方に向きを変えると、正面には大きな鏡があるから。


私は毎日、この鏡をいかに見ないようにするかを考えながら生きていると言っても過言ではなかった。


仮にしっかり見ても、暗い空間の中に私がうっすらと映っているだけなんだろうけど。


万が一、万が一別の何かが映っていたら?


鍵が掛かっているはずの玄関の引き戸が、スーッと開いて得体の知れない物が入ってきたら?


そう考えると、一切見ないように俯いて通り過ぎるのが一番だった。


お風呂に行くには、台所、居間、客間の前を通り過ぎて、廊下の突き当たりを左に曲がった場所にある。


クラスメイトの家と比べても珍しい、廊下が曲がりくねった家なのだ。


そして、玄関の正面にある鏡を通り過ぎても、まだ顔を上げることは出来なかった。
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