おうちかいだん
廊下の突き当たり。


そこにもまた鏡があって、私はこの家の廊下ではずっと下を向いたまま歩いている気がする。


「気持ち悪い……」


正直な話、私はとても怖がりで、幽霊なんているわけがない……なんて強がれるようなメンタルをしていない。


小さい頃から染み付いた恐怖心というのは、簡単には払拭できないのだ。


ここで顔を上げて鏡を見てしまって……鏡の中の自分が私に向かって走ってきたりするんじゃないかとか考えるだけで、心が潰れてしまいそうになる。


いつも、鏡の前を通る時は、見えない刃物で身体中を撫でられているような、そんな痛みにも似た寒気を感じるのだ。


そこを抜け、お風呂場に到着してやっと安心ができた。


脱衣所にも当然鏡はあるけれど、怖いのは廊下の鏡だけだった。


「玄関の正面に鏡があるとダメなんじゃないの? 風水とかそういうの的にさ」


ブツブツと文句を言いながらお風呂に入り、嫌なことを忘れようと湯船にのんびりと浸かる。


この瞬間が私の一日の中で至福のひとときだけど……それは、最も恐ろしいことと隣り合わせだった。


お風呂を出て、部屋に戻る時。


鏡を背に廊下を歩く時が、私は一番嫌だった。
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