おうちかいだん
「ところでおばあちゃん、あの戸棚には何が入ってるの? 高くて私じゃ届かないんだけど」


いつも気になっている、コンロの真上にある古い戸棚。


油が付着して黒くなっているそれを指さして尋ねた。


「ただの戸棚だよ。ハシゴでもなきゃ届かないけど、危ないから絶対に開けちゃいかんよ。高い場所だから、転んだら大怪我するからね」


おばあちゃんの言うとおり、私の身長じゃ、テーブルに乗ったって届かない。


転んだら大怪我だというのも納得だ。


そんな話をしていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。


この時間に家に帰ってくるのはお母さんしかいない。


パタパタと、廊下を歩くスリッパの音がこちらに近付いてきて、台所の引き戸が開けられた。


「あ、お、お母さん。おかえりなさい」


「……あんた、またこんな所にいて。宿題は終わったの?」


チラリとおばあちゃんの方を見て、すぐに私に視線を戻すと、不機嫌そうにそう言った。


「うん。おばあちゃんと話をしてたの」


「うちにはおばあちゃんなんていないでしょ。いい加減わかってほしいわ」


大きくため息をつくとそう言って、お母さんはテーブルの上に夕飯の材料が入ったレジ袋を置いた。
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