おうちかいだん
「ひっ!」
驚いて箸を床に落としてしまった私を、お母さんが睨み付ける。
慌ててそれを拾い上げて、流しで洗うと再び席に着いた。
戸棚に視線を向けてみると……今度はしっかりと閉まっている。
さっきの目は……何だったんだろう。
私の見間違いかな。
それとも、泥棒か何かが、あそこに潜んでいるとか。
だとしたら何だか怖いな。
知らない人がこの家にいるかもしれないってことでしょ?
「お、お母さん。あの戸棚の中に誰かいる! 今、こっちを見てた!」
戸棚を指さしてそう言うと、お母さんは不思議そうに戸棚を見て首を傾げた。
「あの戸棚の中? そんなわけないでしょ。ちゃんと閉まってるじゃない。どうやってあんたを見るのよ。本当に体調が悪いみたいね。風邪でもひいた?」
呆れたようにそう言って、私のおでこに手を当てたお母さん。
見間違いなんかじゃない……と、主張しようとしても、実際にお母さんが見た時には戸棚は開いていないから、私の見間違いと言われたらそれ以上反論出来ない。
だけど本当に見たんだから。
こうなったら、誰もいない時に見るしかないよね。