おうちかいだん
「まさか……そんな馬鹿な。きっと見間違いだよ。ほら、何も垂れた跡なんてないしそもそもひとりでに開くはずがないと思うんだけどねぇ」


私だって今まで開いているのなんて見たことがないし、気にもならなかったということは、ずっと閉じられていたということだろう。


「うん、だから開けてみたいんだ。いいでしょ? お母さんには内緒にしててね」


「お母さんは……怖い人だねぇ。私の言うことなんて聞いてくれやしないよ。だけど、本当に開けるのかい? 埃が落ちてくるかもしれないよ?」


いつもお母さんに無視されているおばあちゃんが、何を言っても聞いてもらえるはずがない……か。


どうしてそんなに仲が悪いのかは私にはわからないけど、お母さんに知られることがないというのはありがたいよ。


「開けたらすぐ後ろに下がるから大丈夫。じゃあ開けるね」


私はそう言って、ホウキを戸棚に近付けた。


出っ張りのない、扉になっている板の下に、指を入れられるへこみがある戸棚。


そこにホウキの柄を引っ掛けて開けようとするけれど……金具が固まっているのか、それとも私の力が伝わりきっていないのか、扉は開かなかったのだ。


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