エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

「アレってなんだ?」

 キッチンに入っていきながら尋ねると、花純が冷蔵庫を閉めて振り向く。

「オムライスです。野菜とご飯と卵はありますし、生の鶏肉の代わりにサラダチキンを使っても、立派なチキンライスができますよ」

「へえ。食ってみたい」
「よかった。すぐ作りますね」

 花純が作業に入ると、俺はキッチンのカウンター越しにあるダイニングテーブルに移動し、てきぱき料理する彼女の姿をぼんやり眺めた。

 俺の母親も、あんな感じで毎日楽しそうに料理をしていたな。

 ……でも、楽しそうにしているのは料理が完成するまでの間だけ。

 食事中は笑っていてもどこか寂しげで、食後は憎々しげに、余った料理をゴミ箱に放り込む。その後で涙を流す日もあった。

 泣くくらいなら、あの人のぶんは作らなければいいのに。

 幼き日の俺は、単純にそう思っていた。とにかく、母がさめざめと泣くシーンを見ると胸が痛くなるから、いつも食後が憂鬱だった。

「ねえ、司波さん」
「……ん?」

 過去に思いを馳せていた俺は、花純の声で我に返った。彼女はチキンライスを炒めている最中で、フライパンからジュウジュウといい音がしている。

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