エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「あの。これ、どういう意味ですか?」
どうやらそもそも読めていなかったらしい。さすがに日本語で同じ意味の言葉を書くのは抵抗があったので、フランス語を使ったのが仇になったか。
「ああ、それは日本語に訳すと――」
説明する途中で、待てよ、と思った。これ、教えたら俺だけが恥ずかしいじゃないか。
彼女はただ俺の名前を書いただけなのに、こちらだけこんな甘いフレーズ……。
羞恥に耐えられなくなった俺は、むんずと手にしたスプーンの背で、花純のオムライスのケチャップを卵に塗り広げた。文字は即座に読めなくなり、花純が悲しそうな声をあげる。
「あっ、なんで!」
「やっぱりこんな遊びくだらない。ケチャップは広げて食べた方がうまいに決まってる」
「だからって!」
花純はしょんぼり肩を落とす。その姿に胸がチクチク痛んだが、最初に期待を裏切ったのは彼女の方だ。
「お前こそ、なんだよこれは。なんで俺の名前を書いた」
「き、聞こうと思ったんです」
「なにをだ」
そっけなく先を促すと、花純はなぜか頬を赤らめ、ためらいがちに言った。
「これからは〝時成さん〟って呼んでもいいですか? ……って」