エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
ぎゅっ、と胸の奥がつねられたような痛みを覚えた。
なんだよそれ。先に言え。というか、そんなのわざわざ聞かなくたって……。
「……いいに決まってるだろ馬鹿」
顔が熱い。もしかしたら俺の頬も赤いのかもしれない。それを隠したくてテーブルに頬杖をつき、あまり花純の顔を見ないようにしながらボソボソ告げた。
ちら、と花純の顔を窺うと、彼女は浮かない顔からじわじわ笑顔になって、ホッとしたように息をついた。
「ありがとうございます。怖い顔してるからダメって言われるかと思いました」
「これは俺の真顔だ」
と、いうのは真っ赤な嘘。気を抜いたら目元も頬も緩んでしまいそうだから、わざと険しい顔を作っている。それもこれも全部花純のせいだ。
やっぱり俺の中で彼女はすでに【ma chérie(愛しい人)】なんだろう。
塗り広げてしまう前のケチャップの文字を思い返し、俺は心の中でひとりごちた。