エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
わざとらしく声を潜める柳澤さんと、少々興奮気味の光希さん。どうやら時成さんに関する内緒話らしい。
キョトンとする私に、柳澤さんがヒソヒソ尋ねる。
「花純ちゃん、カクテル言葉って知ってる?」
「カクテル言葉? いえ」
時成さんにも話したけれど、恥ずかしながらカクテルについては本当に無知なのだ。
「花言葉みたいなものでさ。カクテルの種類によっていろいろな意味があって、それを愛の告白に使ったり、ベッドに誘う文句の代わりにしたりするわけ。前、ここで雨郡さんと司波と三人で飲んでた時に俺がふたりにレクチャーしたから、司波も当然カクテル言葉の存在は知ってる」
「……はい」
「そこで思い出してほしいんだけど、花純ちゃんが司波とバーに行った時、一杯目にご馳走になったカクテルって、なんだった?」
そう聞かれて、時成さんとバーを訪れた日の記憶を辿る。
喉が渇いていた私はフルーティーなものをとだけリクエストして、注文は時成さんがしてくれたんだよね。
『バレンシア。お子様にぴったりのオレンジジュースみたいな酒だ』
子どもっぽい私を皮肉るように、彼はそう説明していたっけ。