エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

「確か、バレンシアというカクテルです」

 柳澤さんの目を見て答えると、彼は「だよね。知ってた」とにやにや笑う。

 その顔のまま、ポケットからスマホを出して操作しはじめる。やがて指の動きを止めた彼は、スマホをこちらに向けてコトッとテーブルに置いた。

「アイツたぶん、花純ちゃんにこの言葉を伝えたかったんだよ」

 画面に表示されているのは、あるWEB上の記事。そこにはグラスに入ったバレンシアの写真とともに、カクテル言葉とその説明が添えられていた。

【バレンシア:お気に入り
 気になる相手にさりげなくアプローチしたいときに!】

 お気に入り……。時成さんがこのカクテルを頼んだ理由は、私が彼の〝お気に入り〟だからってこと? 

 ドキッと胸が高鳴るのと同時に、あの夜彼が呟いたひと言が脳裏に蘇る。

『なら、一杯目の意味に気づくわけもない、か……』

 その横顔がどこか物憂げだったのは、私がカクテルにこめられた意味を読み取れなかったから? 本当は、自分の気持ちを伝えようとしていてくれたの?

 洗面所の歯みがきセットといい、もしかしたら、時成さんは私が思うよりも私を大切に思ってくれている……?

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