エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
フランス語としては読めないけれど、スペルは大体覚えていたので、口頭で一文字ずつ伝える。すると柳澤さんがなぜか「ブフッ」と噴き出した。
「な、なにがおかしいんですか?」
「いや、ゴメン。司波が機嫌を損ねた理由がわかる気がしてさ。アイツとしては、花純ちゃんでもわかりそうなレベルのフランス語で精一杯の想いを伝えただろうに、本人に汲んでもらえなくて哀れというかなんというか」
「ですね。花純さん、ma chérieの意味くらいなら、特にフランス語に詳しくない私でも知ってますよ」
光希さんも苦笑いで、柳澤さんに同調する。
そんなに簡単な言葉なの? 私は発音すら光希さんに聞くまでわからなかったのに。
「どうする? 光希ちゃん。花純ちゃんの鈍さに司波がいつまでも悶々としてる姿を見るのも愉快だけど、花純ちゃんのためにはヤツの精一杯の愛の言葉を教えた方がいいのかな」
「うーん……。妹としては、正々堂々日本語で気持ちを伝える兄に期待したいですけどねえ」
ふたりとも、面白がるのは勝手だけど、早く意味を教えてくれないかな。
彼らの顔を交互に眺めてそんなことを思っていたら、私はふと単純な解決策を思いついて「あっ」と声をあげた。