エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
時成さんがそこで言葉を切ったので、私は洋酒の瓶から目線を上げて彼を見る。
キッチンでふきんを絞っていた彼は、少々不機嫌そうに言った。
「俺のいない隙に、浮気するなよ」
「し、しませんよ! そんな器用な女に見えます? 私」
「お前にその気がなくたって、男の方から寄ってくるかもしれないだろう」
しかめ面のままで忠告を続ける彼だが、あり得ない話過ぎて私は思わず笑い飛ばす。
「ないですって。言ったじゃないですか、時成さんとお見合いするまで男性にはまったく縁がなかったって」
「それはお前が男からの好意に鈍いだけだ。あのアシスタントだって――」
時成さんはそう言いかけ、口を噤む。
今、アシスタントって言ったよね? もしかして伏見くんのことだろうか。そういえば、以前彼と一緒にお茶しようとしている場面を時成さんに見られたっけ。それで誤解しているのかな。
「伏見くんとは、ただの師弟関係ですよ?」
「……まあ、お前がそう思ってるなら、それでいい」
それでいいと言いながらも、時成さんのむすっとした表情は変わらない。
その顔のままテーブルを拭きにキッチンを出て行こうとしたので、私はとっさに彼の服を掴んだ。