エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 始まったばかりでさっそく暗礁に乗り上げた同棲生活は、これからいったいどうなることやら。

「先週の料理教室の後、花純さんをひとり廊下で待ってる婚約者さんは、すごく愛情深そうに見えたのになぁ」
「浮気じゃないですか?」

 紗耶香ちゃんのフォローにかぶせるように、伏見くんが冷めた声で言った。手には包丁を握り、鮮やかな手さばきで、のり巻きの具となるアナゴを開いている。

 私自身も、ほんの少しだけ浮気の可能性を疑った。

 しかしさすがにそれはないと、すぐに心の中から消し去った。……はずなのだが、第三者にまで言わると再び疑念が湧いてくる。

「それ、ただのアンタの希望的観測でしょ?」

 紗耶香ちゃんが鼻で笑うけれど、伏見くんは仏頂面で続ける。

「いや、これに関しては客観的に見てもそうでしょ。家で婚約者が待ってるのに酒飲んで朝帰りなんて、土下座して謝る案件ですよ普通。なのに、説明責任から逃れるように休日出勤。限りなく黒に近いと思いますけどね」

 伏見くんが言葉を重ねるたびに、ずーんと気持ちが落ち込んでいく。

 やっぱり、浮気……なのだろうか。疑いたくはないけれど、彼がほかの女の人に逃げたくなる理由に、思い当たる節がないわけではない。

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