エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
と、その時。教室の扉が外からノックされ、私とアシスタントのふたりは顔を見合わせた。
まだ授業開始までは三十分以上間があるけれど、早く着いてしまった生徒さんだろうか。
「どうぞー」
私がそう言うと、ゆっくりドアが開いて見知った顔がひょこっと顔を出した。
「お疲れ花純ちゃん。時間早いけど、入っちゃっても平気?」
「柳澤さん。構いませんよ、どうぞ」
まさか、今日も時成さんと一緒じゃないよね?
一瞬身構えたものの、入ってきたのは柳澤さんひとりだった。
彼は自分のキッチンに荷物を置くと、興味津々に私たちが準備の作業を進めるキッチンに歩み寄ってきた。
「うわ~。立派なアナゴ。今日、これ使うんだ」
「ええ、のり巻きの具です。今日は、お仕事早く終わったんですか?」
「本当はまだ残ってたんだけど、司波が代わりにやってくれるって。だからゴメン花純ちゃん、今夜もアイツの帰り遅いと思う」
「そうですか……」
わかりやすくしょんぼりした私に、柳澤さんがキョトンと目を丸くする。すると、伏見くんが遠慮がちに柳澤さんの顔を覗いた。