エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

「……少し、羨ましいよ」

 話を聞きながらお茶漬けを食べ終えた時成さんが、レンゲを置いてふと呟いた。

「両親が離婚している話は聞かせただろう? 子どもの俺にハッキリとした原因はわからないが、食事が大きな理由だったことは間違いないと思っているんだ」

 離婚原因が食事……?

 私が目を瞬かせていると、時成さんは切なげな目で宙を睨み、過去を語り始める。

「父も官僚なんだが、俺以上に仕事人間だった。帰りはいつも午前様で、食事も外で済ませた後。それなのに、母は毎日意地になって、父の分まできっちり料理を作っていた。食べてもらえなくて、捨てる羽目になるのが分かっているのに。もう、強迫観念みたいな感じだったな」

 当時の彼のお母様の心中を考えると、胸が痛くなった。

 だって、相手に食べて欲しいと思うから料理を作るのに。その気持ちを、毎日裏切られていたわけだよね。

 でも、お父様も仕事だから仕方がなかったのかな……。

「母があんなに健気に毎日料理を作っているのに、父は少しも歩み寄ろうとしない。俺が、〝料理に人を動かす力などない〟と思うようになった理由は、幼い頃からずっとそんな両親の姿を見てきたからだ。だって、もしそんな力があるなら、俺の母だって報われていいはずだろ?」

 時成さんは、無理に笑おうとして失敗したかのような、歪んだ表情で訴えた。

< 159 / 233 >

この作品をシェア

pagetop