エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
それはつまり、時成さん自身の心が、私の料理によって動いた――そういう意味?
考えているうちに、互いの鼻先がくっつきそうな距離にまで近づき、ドキンと胸が鳴る。
勝手に潤みだした瞳で彼を見つめると、時成さんが長い睫毛を伏せて、形のよい唇を小さく震える私のそれに押しあてた。
優しく触れるだけの、けれど長いキスだった。胸がジンジンと熱く高鳴り、甘く切ない気持ちがあふれる。
――好き。喉元まで出かかっていたその二文字を私が告げるより先に、時成さんが愛しそうな眼差しをして言った。
「好きだ」
瞠目した私の視界が、途端にゆらゆらと揺れる。もっとちゃんと、彼の表情が見たいのに。
涙を散らすように瞬きをしても、すぐに新しい涙が湧いて、愛しい人の姿を霞ませる。
「……なんで泣いてんだよ」
ふっと苦笑した彼が、親指で私の涙を拭ってくれる。私は鼻を啜りながら、不細工であろう顔で、なんとか言葉を紡ぐ。
「だ、だって。うれし、くて……っ」
子どものような私に時成さんははぁっとため息をつき、小さく舌打ちをした。
「泣くほど喜ぶとか……かわいすぎんだろ馬鹿」
彼はぶっきらぼうにそう言ったかと思うと、泣き続ける私を抱き寄せて、頭をよしよしと撫でてくれる。
いつになく甘やかしてくれる彼から離れたくなくて、私はしばらく広い胸に身を預けたまま、彼のシャツに次々涙の染みを作った。