エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「いえ、私ひとりです。土曜の夜に料理研究家の師匠である泉先生という方からパーティーにお呼ばれしているんですが、夜遅くなるからと先生がご厚意でホテルまで取って下さったんです。なので、せっかくだから翌日も勉強がてら色々な飲食店を回ってみようと思っていて」
「そうか。しかし、ひとりで歩かせるのも心配だな。ナンパとか、事故や事件に巻き込まれたりしないかとか」
過保護な彼のセリフが、愛されている証拠のようでうれしい。
ナンパや事故だなんて、少し考えすぎだとも思うけれど。
「大丈夫ですよ。それより、お土産なにがいいですか?」
「土産か。そうだな……夫婦茶碗なんてどうだ? 京都には焼き物の工房が多いだろう」
「それ、いいですね! 素敵なもの、選んできます」
今もふたりぶんの茶碗はあるが、時成さんが実家から持ってきた、色も柄の違うものだ。
それを使い続けても悪くはないけれど、せっかくならこの機会にお揃いにして、ふたりで囲む食卓に華を添えたい。
「なぁ花純」
「はい」
返事をしたら、彼は繋いでいる手を軽く引っ張って、私を抱き寄せた。