エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
と、その時。通路を歩いてきた乗客が、ふと私の横で足を止めた。
「お疲れさまです、花純さん」
聞き慣れた声に名前を呼ばれ、顔を上げた私は固まった。
そこにいたのは、見慣れないスーツ姿の伏見くん。いつものカジュアルな服装とは雰囲気が違うので、一瞬誰かわからなかった。
「びっくりした。どうしたの? お出かけ?」
プライベートでどこかに遊びに行くのだろうか。それにしても、同じ新幹線の同じ車両で出くわすとはすごい偶然だな。
「お出かけっていうか……あ、とりあえず隣に座ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ」
「失礼します」
伏見くんは肩から提げていた大きめのトートバッグを荷物棚にのせ、隣の席に腰を下ろす。
そしてこちらを向くなり、悪戯っぽい笑みを浮かべて口を開いた。
「さて問題です。今日の俺は、どうしてスーツ姿なんだと思います」
「えっ? うーん……」
急に出されたクイズに戸惑いつつ、改めて彼のスーツをまじまじと見る。
明るいグレーの、チェック柄スリーピーススーツだ。胸元にはポケットチーフもあるし、ビジネスと言うよりは、パーティーに参加するような感じ。