エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
私の頭の中に大量の疑問符が浮かんでいるのを察したかのように、伏見くんはぽつぽつ事情を語り始める。
「俺、料理は好きですが実家の料亭は大嫌いなんです。だから、跡継ぎとしての修行から逃げるように東京の大学に行きました。でも、卒業後はどうしよう。そう悩んでいた時に、テレビで初めて花純さんを見たんです」
「私……?」
「はい。『高級フレンチを自宅で気軽に』という企画で、身近で手に入りやすい食材を使いつつ、見た目や味はレストランに勝るとも劣らない。そんなレシピを実演しながら紹介していました」
数年前、たしかにそんな企画に参加した覚えがある。
出演者の中には星付きのフレンチレストランのシェフまでいたので、試食してもらう時は緊張したが、お褒めの言葉を頂戴できて安心したっけ。
「花純さんの作る料理は、実家の料亭が出すおごり高ぶった料理とは真逆。すごく魅力的だなと思いました。いくら美味しくたって、金のある一部の会員にしか提供しない料理なんてなんの意味があるんだろう。自分が常々そう思っていたことに、改めて気づかされもしました」
伏見くんは料理が好きで、ご実家は有名な料亭。本来ならこれ以上ない幸せな環境なのに、うまくいかないものだな。
彼の気持ちもわかるけれど、ご両親の心中はどうなのだろう。