エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

「その番組がきっかけで、私に弟子入りを?」
「はい。ひと目惚れってやつですね」

 伏見くんが悪戯な目をして、そんなことを告げる。

 言葉のあやだとわかっているが、少しどきりとした。隣同士の座席で、距離が近いせいもあるのかもしれない。

「ところで花純さん、ずっと気になってたんですけど……あの後わかりましたか? 婚約者さんの朝帰りの理由」

 突然話題を変えた伏見くんが、気づかわしげに私の顔を覗く。

 私はかすかに微笑んで首を横に振った。

「ううん、結局聞けずじまい。でも、今さら掘り返さなくてもいいかなって。最近は毎日早く帰ってきてくれて、態度も優しいし」
「甘いですよ花純さん。花純さんが聞いてこないからって調子に乗って、この出張中にまたほかの女の人と会ってたりしたらどうするんですか」

 私は小首を傾げ、少し考える。以前は私自身も彼の浮気をほんの少しだけ疑ってしまったけれど、今はそこまで不安はない。

 だって、あの時成さんがほかの女性に甘いセリフを吐いたり、抱きしめたり、キスをしたり。そんな軽い言動、するようには思えない。

 ぶっきらぼうで照れ屋で、それでも、私に対しては料理を通して心を開いて『好きだ』と言ってくれた。誰になんと言われようと、私はその言葉を信じてるから。

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