エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

「そういえば、先生と伏見くんはどういう知り合いなんですか?」
「泉先生は、実家の店でただひとり、誰の紹介もなく会員になった強者です。『この店の料理を食べないと、京料理のスペシャリストにはなれないんです!』と熱弁しながら、親父に土下座していたシーンを今でも覚えています」
「ど、土下座……!?」

 驚いて泉先生を見ると、彼女はあははっと大きな口をあけて笑った。

「きみ、まだ子どもだったのによく覚えているわねえ。でも、どうして家を出たの? あなた料理好きだったでしょ?」

 泉先生はテーブルを挟んで私たちの向かいに腰を下ろし、伏見くんの顔を覗く。

 彼は苦笑し、私にも話してくれた実家の料亭への反発心について、泉先生にも正直に打ち明けた。

「なるほどね……。気持ちはわからないでもないけれど」

 事情を聞いた先生はそこで言葉を切り、テーブルの上に並ぶ料理に視線を落とす。その中からおもむろに焼き魚の皿を手に取ると、再び口を開いた。
< 176 / 233 >

この作品をシェア

pagetop