エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「それを見た柳澤が、『料理教室の時に言ってたのって、ただのハッタリじゃなかったのか?』って急に焦りだしてな。俺自身もあのアシスタントがお前に気があるのは気づいていたから、これは東京でのんびり酒飲んでる場合じゃないって、慌てて家を飛び出したんだ」
「なるほど……」
タクシーで移動中の私に電話を掛けてきた時には、時成さんもすでに近くまできていたんだ。
ようやく状況を整理できて、頭の中がスッキリする。
「でも、アイツに付け込まれたのは俺が不安にさせたせいでもある。だから、悪かった。あの夜……自分勝手に家を出て、朝帰りしたこと」
時成さんは心から申し訳なさそうに謝罪し、私の背中に回した腕にギュッと力を籠める。
そこから伝わる確かな愛情が、私にあの夜のことを素直に尋ねる勇気をくれた。
「聞いてもいいですか? あのとき、どこでなにをしていたのか」
「ああ。柳澤に呼び出されて、酒を飲みながら失恋の愚痴を聞かされていたんだ」
「失恋?」
もともと気が多そうな柳澤さんとはあまり結びつかない言葉だ。なんて失礼なことを思っていると、時成さんが当時の状況を回想しながら続ける。