エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「どうしたの? 寝不足?」
心配になって歩み寄ると、伏見くんは遠い目をして言う。
「ええ。そりゃそうですよ。隣のカップルが夜通しお盛んだったので」
「隣のカップルって……」
私は彼の部屋のドアと、自分の部屋のドアとを交互に見て愕然とする。
も、もしかして、私たち? しかも〝お盛ん〟って。想像したくはないけれど、時成さんに抱かれている最中の声が筒抜けだったってこと……!?
かぁぁっと一気に頬が熱くなり、思わず両手で顔を挟む。
「……幸せにしてもらってくださいね、花純さん。俺はもう、すぐそばでその姿を見ることはできませんが」
「え?」
不意に聞こえた寂しげな声に反応し、我に返って伏見くんを見つめる。
「戻ることにしたんです、実家の店に。って言っても、一度東京に帰って、花純さんとしていたお仕事に区切りがついてからですけど。背中を押してくれたのは、泉先生と花純さんです」
「伏見くん……。うん、それがいいよ。私、応援してる!」
ガッツポーズを作ってそう言うと、彼は大きなしがらみから解放されたかのように、晴れやかな笑みで頷いた。