エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 ノートは男アシスタントのもので、このアホっぽい赤字の添削が花純の字か……。

 なんとなく微笑ましい気持ちになりながら、ページを最新まで眺める。すると、一番最新のページに【好きです】と綴られた付箋が貼られているのを見つけた。筆跡は、伏見のものと一致する。

 ……ふうん。そういうことか。

 俺は迷うことなく付箋をノートから剥がし、ぐしゃぐしゃに丸めてスーツのポケットに突っ込んだ。

 その日から俺の中で、伏見という男はかなり気に入らない存在になり、最大限警戒していたつもりだった。……しかし、京都ではやられた。

 花純が出張に出かけた当日、一緒に飲んでいた柳澤が『花純ちゃんの師匠なら、きっと美人だろうな~』などとミーハー心丸出しでSNSを覗かなければ、写真に気づくことはできなかった。

 アイツは時々変なところで役に立つのだ。

 しかし、そんな最大の邪魔者・伏見も六月には花純のアシスタントを辞め、実家のある京都に帰っていった。実は、有名な料亭の息子だったらしい。

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