エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
『ご両親と、仲直りできるといいですね』
伏見が最後の勤務を終えた日、家でなにげなくそう話した花純に対し、俺は複雑な思いだった。
それは俺自身が、離れて暮らす両親とは決していい関係を築けていないからだ。
母の手料理を無視し続けた父にいい感情を抱いていないのはもちろん、母とは社会人になるまで一緒に暮らしていたのに、なんでも話せる間柄というわけではなかった。
俺はできるだけ母に笑っていて欲しいから、父の話は極力避けていたのに。
母は時折、自分の離婚話を自虐気味に語っては涙を流して、俺の心をつらくさせた。
俺の恋愛事情に興味を示し、『私みたいに失敗しちゃダメよ』と忠告してくるのも、反応に困るからやめてほしかった。
『付き合ってる女なんかいない』
まるで反抗期のように冷たくそう答える以外に正解が見つからず、けれど母にそんな態度を取った自分に自己嫌悪になる。そんな悪循環の繰り返し。
だから、母のことは家族として大切に思っているはずなのに、家を出ると決めた時にはどこか解放されたような気分だった。
このまま母とも距離を置き、仕事に生きる人間になろう。計らずも、嫌悪していたはずの父と同じ生き方になってしまったが、同じ血を引いているので仕方がないのかもしれないな。