エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 七月下旬の土曜日。ちょうど昼の十二時頃に、両親は俺たちのマンションを訪れた。

 先にやってきたのは母で、花純とはすでに打ち解けた様子。挨拶もそこそこに、キッチンであれこれ料理の話をして盛り上がっていた。

 数分遅れてやってきた父は俺がひとり玄関で出迎えた。記憶にある父の姿よりずいぶん年を取り、顔つきも穏やかに変わっている。

 十五年近く会っていないのであたり前なのだが、そんな父を見たら、長年胸に積もらせていた恨みつらみは、不思議と波のように静かに引いていった。

「大きくなったな、時成」

 真っ先に父の口から出たのは、まるで、親戚の小さな子どもに掛ける言葉。俺は思わず、その微妙なよそよそしさに苦笑する。

「変わってないだろ。身長の伸びは高校の時に止まってる」
「体の大きさじゃない。大人になったなということだ」

 他愛ない言葉を交わしながら父をリビングに案内すると、キッチンにいた母が入ってきた俺たちに気付く。

 両親はぎこちない様子で「久しぶり」と言い合い、花純に促されてダイニングテーブルの席に着いた。

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