エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う

 俺がふたりの向かい側に座っても気まずい空気は変わらなかったが、それを切り裂くようにして、花純がキッチンから料理を運んでくる。

 華やかな手毬寿司、ボイルドタンのサラダ、生地から手作りしたピザ、スペアリブの包み焼、オニオングラタンスープ。

 テーブルには和洋折衷のご馳走が並び、瓶ビールで乾杯すると両親の表情も次第に和らいでいった。

「しかし、時成が結婚するとはな」

 酒が進み、ほんのり頬を赤くした父が言う。

「光希に聞いたよ。びっくりしてお茶こぼしたって?」
「ああ、もし結婚するなら光希が先だろうとばかり思っていた。お前は俺に似て素直じゃないからな」

 父のしょうもない冗談に、鼻を鳴らして笑う。ちょうどその時、隣で向き合う母と花純も似たような話をしていた。

「時成って口数が少ないから、彼女すらできるか心配だったのに、こんな素敵なお嫁さん捕まえるなんてびっくりよ」
「いえいえ、そんな素敵だなんて」
「時成のこと、よろしくね」

 一見、食卓は和気あいあいとした雰囲気である。

 しかし父も母も、俺か花純を介してでなければ、元夫婦として直接言葉を交わすことはほとんどなかった。

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