エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「ほう、鯛茶漬けか」
真っ先に弾んだ声をあげたのは、意外にも父だった。花純は得意げにふふんと微笑んで、両親を見る。
「これ、お母様の得意料理だったんですよね?」
「ええ……。花純さん、覚えていたのね? この人が、唯一食べてくれた料理の話」
母が、遠慮がちに父を見ながらそう言った。
鯛茶漬けが母の得意料理? 俺はその言葉がにわかに信じられなくて、首をひねった。
少なくとも、母と一緒に暮らしていた二十数年間、俺はこの料理を一度も食べたことがない。どういうことだ?
「なんだ、母さんも花純さんにその話をしていたのか?」
「えっ?」
「俺も、花純さんとお会いしたときに、鯛茶漬けの話をしたんだ。夜遅くまで働いて、外での会合ついでに食べたくもない夕食を食べて。クタクタに帰ってきたところでこの茶漬けを出してもらった日は、なんとも嬉しかったものだよと」
しみじみと目尻を下げる父を見て、俺はようやく得心する。俺が知らなかっただけで、父にも母の料理を食べている時間があったのだ。
鯛茶漬けという、ささやかな一品ではあるけれど。