エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
そう呟き、茶碗をテーブルに置いた父に、俺は思わずムッとしてしまった。
花純の鯛茶漬けの、なにが違うというのか。
反論するために自分も茶碗とレンゲを持ってひと口味わうと、期待した通りに美味である。むしろ、いつも以上に美味しい気さえする。
「おい親父、この絶品茶漬けのどこに文句が――」
「これは時成さんの好みに合わせて作ったんです。時成さんのお母様が、お父様のためにそうしていたように」
俺の言葉を遮り、花純が凛とした声でそう言った。
思わずハッとした。そのままゆっくり鯛茶漬けに視線を落とし、そうかと納得する。
これを俺が〝美味しい〟と感じるのは、花純が俺の好みに焦点を合わせて作ったから。
それと同じように、父にも父が求める味があるのだ。
「俺は……きみの料理を、そしてきみ自身を軽んじすぎていたな。深夜まで俺を待ち、茶漬けを用意し、食べ終わった後の片付けまで完璧にやってくれていたきみに、〝ありがとう〟すら言っていなかった」
レンゲを置き、ゆっくり母の方を向いた父が後悔を滲ませて懺悔する。母は小さくかぶりを振って、優しく微笑んだ。