エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「あなたの好きなのは、これでしょ?」
十数分後。母の手によって父の前に置かれたのは、もちろん鯛茶漬け。しかし、花純が作った者とは見た目から微妙に違う。
飾りの三つ葉がなくなり、代わりに乗っているのは刻み海苔。鯛はシンプルな漬けにしたようで、ゴマの香りはしない。
しかし、ぎょっとするほどたくさんのワサビが脇に添えてあった。見ているだけで鼻の奥がむずむずしてくる。
「そうそう、これこれ」
父はくしゃっと相好を崩し、母の鯛茶漬けを口に運ぶ。しばらく目を閉じてじっくり味い、ごくりと飲み込むと、それはそれは満足げに吐息をついた。
「本当に、懐かしくてうまいよ。ありがとう、母さん。それに、花純さんも」
「いいえ、私はなにも」
花純は首を振って謙遜する。しかし、おそらく料理の持つ力を誰より信じている彼女だからこそ、今日両親に鯛茶漬けを食べさせることを思いついたのだろう。
いつまでもガキみたいにひとりで拗ねていた俺に、両親の本当の姿を見せるために。
「……どんだけ好きにさせんだよ、お前」
ちらりと隣の花純を睨み、ぼそりと呟く。
しかし「えっ?」と花純が振り向くと、わざとぷいっと顔を背けて「なんでもない」と誤魔化した。