エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
一方、向かい側では両親も、なにやらいい雰囲気になりつつあった。
「離婚した時、私がどうして旧姓に戻さなかったかわかる?」
「え……時成が高校でからかわれたりしないようにじゃないのか?」
「違うわよもう……! 鈍い人ね」
たしかに、母は離婚時に父の姓である司波から旧姓に戻さなかった。
当時は『手続きが大変だから』と説明していたが、この様子を見る限り、ただ父に未練タラタラだっただけらしい。
年甲斐もなくぷりぷり怒る母の機嫌を、父が慌ててなだめる。そんなふたりの姿を見ていたら、なんだか馬鹿らしくなってきた。
子どもの俺が知らなかっただけで、夫婦には当人たちにしかわからない機微があるのだ。両親には、結婚前にいい勉強をさせてもらったな。
すっかり和解し、復縁の気配すら漂わせ始めた両親に肩透かしをくらったような気分になりつつ、俺は花純の鯛茶漬けをずずっと啜り、その甘めの味付けにひとり笑みをこぼした。