エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
仕事の電話だったので数分席を外し、カウンターに戻ったときにはすでにお酒が運ばれていた。
私の前には、三角形のカクテルグラスに注がれた、オレンジ色のカクテル。司波さんのお酒は、同じ形のグラスにオリーブが入った透明なカクテルだ。
「司波さんのはマティーニですよね。私のは、なんていうお酒ですか?」
「バレンシア。お子様にぴったりのオレンジジュースみたいな酒だ」
「もうっ。耐性がついてきたからって、無理やり毒を吐く必要はないんですからね?」
静かなバーの雰囲気を壊さないよう小声で異を唱え、さっそくグラスに口をつける。オレンジの他にアプリコットの甘い風味がして、リクエストした通りの爽やかでフルーティーな味わいだった。
「美味しい。ところで、なにか私に話があるんでしたよね? なんでしょう」
「そんなもの、お前を連れ出すただの口実だ」
「え?」
キョトンとする私を無視して、彼は一杯目のマティーニをくいっと呷り、あっという間に空にした。それからピックに刺さったオリーブを指先に持ち、私の口に近づける。
「オリーブは苦手だから、やる」