エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
「別に。お前をからかいたかっただけだ。俺のエプロン姿を笑った仕返し」
軽く笑ってそう言われ、なるほど、と納得する。司波さんが本心であんな甘いセリフを吐くわけがない。
彼の反応は想定内だったが、なぜか心の中をぴゅうっと冷たい風が吹き抜けた。それをごまかすように、私はへらっと笑顔を浮かべる。
「なーんだ。ドキドキし損でしたね」
冗談めかしてそう口にすると、隣でグラスに口を付けていた彼がちらりと流し目でこちらを一瞥する。
バーの暗い照明に浮かび上がったその表情があまりに色っぽくて、直視できなくなった私はお酒に逃げた。グラスに残っていたバレンシアを、ごくごくと一気に飲み干す。
しかし、バレンシアはアルコール度数も高くないので酔うにはほど遠くて、物足りなさを感じた私は司波さんにお願いする。
「あの、次は私もマティーニがいいです」
カクテルには詳しくないが、マティーニが強いお酒だという知識くらいはある。
「ふうん。いいけど、潰れたら置いていくぞ」
「そこまで無茶な飲み方はしませんよ」
そう宣言したはいいものの、いざ口にしたマティーニは想像以上にアルコール度数の高いカクテルで、ひと口でも喉が灼けるように熱くなった。
思わず目を白黒させる私に、司波さんが呆れた視線を向ける。