エリート官僚はお見合い妻と初夜に愛を契り合う
午後になり、電車と徒歩で赤坂のテレビ局に移動すると、伏見くんが先に楽屋に入っていた。今日は紗耶香ちゃんが休みなので、アシスタントは彼ひとりだ。
「もう少ししたらスタッフの方が打ち合わせに来ると言っていました。これ、台本です」
「ありがとう」
楽屋の中央に位置するテーブルに着き、伏見くんから薄い冊子を受け取りぱらぱらと中をめくる。
今日出演する番組では、近著のレシピ本の宣伝を兼ね、収録されているレシピの中からいくつか実際に調理し出演者に食べてもらう。
生放送は時間との勝負だから、台本はよく読んでおかないとね。
「あの、花純さん」
「うん?」
顔を上げると、テーブルの脇に立っていた伏見くんが緊張の面持ちでこちらを見ていた。
「昨日のノートなんですが……」
「あっ、そうだ。全部見たから返すね。揚げ物の衣の種類とその効果について理論的に考察されているのがとてもよかった。でも、もう少しあなた自身の感想を知りたかったかな。自分がこのお弁当を食べたらどんな気持ちになるかとか、自分が大切な人に作ってあげるとしたら、どうアレンジしたいとか」